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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)544号 判決 1998年2月18日

控訴人

浅井牧子

右訴訟代理人弁護士

位田浩

大槻和夫

里見和夫

竹下政行

丸山哲男

小田幸児

金井塚康弘

重村達郎

宮島繁成

被控訴人

安田病院こと安田基隆

右訴訟代理人弁護士

今中道信

守山孝三

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

被控訴人は、控訴人に対し、一四万六六六六円及びこれに対する平成六年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人は、控訴人に対し、平成五年一二月八日から平成九年一二月九日まで毎月一五日限り月額二〇万円の割合による金員を支払え。

控訴人の平成九年一二月一〇日以降の賃金、割増賃金の支払を求める訴えを却下する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて五分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

控訴人が被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

被控訴人は、控訴人に対し、九四五万一一九五円及びこれに対する平成六年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人は、控訴人に対し、平成五年一二月八日から毎月一五日限り月額五〇万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の要旨

控訴人は、平成四年三月、被控訴人との間で、従事する労働を被控訴人の経営する大阪市住吉区<以下略>所在の安田病院の入院患者の付添看護、賃金を基本給月額五〇万円、賃金支払日を毎月一五日と定めた労働契約を締結して、安田病院で働いていたところ、平成五年一二月七日に被控訴人から解雇されたが解雇権の濫用であり無効であると主張して、被控訴人に対し、控訴人が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、平成四年四月一日から平成五年一二月七日までの賃金と割増賃金の未払分九四五万一一九五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、平成五年一二月八日から毎月一五日限り月額五〇万円の割合による賃金の支払を求めている。

これに対し、被控訴人は、控訴人との間で労働契約を締結したことはないと主張して、控訴人の各請求をいずれも争っている。

二  前提となる事実

原判決四頁一行目(本誌七一五号<以下同じ>71頁2段19行目)から同五頁二行目(71頁3段8行目)までに記載のとおりであるから、これを引用する。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

Ⅰ  控訴人と被控訴人との間に労働契約が成立したかどうか。

右労働契約の内容は、どのようなものか。(争点1)

次のとおり付加、訂正するほか、原判決五頁六行目(71頁3段13行目)から同二五頁九行目(74頁3段13行目)までに記載のとおりであるから、これを引用する。(但し、同二一頁末行(74頁1段1行目)から同二四頁八行目(74頁2段24行目)までを除く。)

1 原判決七頁九行目(71頁4段24行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「被控訴人は、原審における答弁書で、安田病院の事務職員小松原が平成四年三月一三日頃に控訴人と面接をしたことがあるとはっきり認めている。小松原は、控訴人と面接して、付添婦の経験、夜勤もできるかどうか、ブラジルでの生活経験等を聞き、面接の結果を被控訴人に報告して採用する旨の意向を受け、第三回目の面接で控訴人に対して付添婦として採用すると伝えたのであり、小松原が付添婦の採用を決定する権限を有していたかどうかは問題とならない。

控訴人は、履歴書を安田病院の事務職員小松原に渡したのであり、三国紹介所に行ったこともなければ履歴書を三国紹介所の仕事を担当していた杉本愛子に渡したこともない。」

2 同九頁二行目(72頁1段20行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「小松原は、安田病院の事務長ではなく、職員を採用する権限を有していなかったから、控訴人を職員として採用すると言う筈がない。

安田病院は、平成四年三月当時基準看護の制度を導入していなかったから(導入したのは平成六年七月からである。)付添婦を職員として採用することはありえず、控訴人を職員として採用していない。安田病院は、基準看護制度を採っていないときに付添婦を職員として採用すれば、付添婦に支払う付添料を保険請求することができず、付添料全額を病院で負担することになり、このようなことをする筈がない。」

3 同一〇頁四行目(72頁2段11行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、安田病院で働いていた約一年九か月間、入院患者或いはその家族との間で、付添契約を締結するかどうか、患者一人付か二人付か、通勤か泊まり込みか、付添時間がどれだけか、付添料が幾らでいつ支払うのかという付添条件について個別に話し合いをしたことはないし、契約を結んだこともない。控訴人は、三国紹介所から患者を紹介されたことも、三国紹介所に手数料を支払ったこともない。三国紹介所の控訴人宛の求職受付手数料領収証(<証拠略>)は、控訴人に交付されておらず、架空のものである。一方、被控訴人は、付添婦の担当する患者、付添時間、付添料金をすべて決めており、概ね患者を二人付、付添料を患者一人当たり日額三六五〇円、夜勤を週二、三回と決めていたのである。」

4 同一一頁九行目(72頁3段9行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、他の付添婦と同様に、患者との間の契約であることを承認して付添業務に従事し、三国紹介所を介して患者から他の付添婦と同じ基準による付添料を受領していたのであり、被控訴人との間で労働契約を締結していない。

被控訴人は、患者の治療について全面的な責任を負っているから、安田病院内の付添婦に対し、後見的立場から注意や指導をし、三国紹介所の業務についても一部手助けをしたこともあったが、このことは、基準看護を採らない病院において業務の円滑適正な遂行を確保するためのものであり、控訴人と被控訴人との間に労働契約が締結されたことを意味するものではない。」

5 同一二頁二行目(72頁3段15行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院の朝礼は、午前八時四五分から行われていたが、被控訴人は、医師、看護婦、事務員だけでなく、付添婦にも全員出席を要求し、遅れたり、出席しない者に対しマイクで呼出し、『早く来い。来ない奴には給料を渡さんぞ。』と怒鳴りつけていた。被控訴人は、付添婦に対し、朝礼で点呼を取り、仕事上の注意や叱責をし、付添婦の代表に対しても仕事上の決意表明をさせていた。」

6 同一二頁七行目(72頁3段24行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「被控訴人は、付添婦が患者との契約によって患者に付き添うからといって、付き添う場所が病院内であり、患者の治療について責任を負うのは被控訴人であるから、当然のこととして付添婦の業務について無関心ではいられず、付添婦の働く場所を決めたり、必要に応じて注意や指導を与えることになり、付添婦も付添業務の円滑な遂行上病院に協力せざるを得ないのである。被控訴人は、患者を大事にすることを信条としているため、付添婦に対する注意や指導に多少厳しさがあったとしても、控訴人と労働契約を締結したのではない。」

7 同一二頁一〇行目(72頁3段27行目)の「タイムレコーダー」の前に「付添婦用の」を付加する。

8 同一三頁二行目(72頁3段32行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「三国紹介所の責任者杉本愛子ともう一人の女性職員は、いずれも安田病院の職員でもあり、毎朝安田病院に出勤し、そのあと三国紹介所へ行って午前中仕事をし、午後はまた安田病院に戻って仕事をしていたのであり、安田病院と三国紹介所は一体の関係である。安田病院は、付添婦用のタイムレコーダーを設置、管理し、安田病院の事務職員である小松原が朝礼で付添婦の点呼をとり、タイムカードを見ながら付添婦の出退勤をチェックしていた。」

9 同一三頁末行(72頁4段13行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「付添婦は、昼間担当の患者の付き添いをするほか、病院からの指示で週二、三回の割で夜勤をしていた。安田病院では、夜間には、勤務につく医師、看護婦が極めて少なく、付添婦の泊まり込み勤務が不可欠であり、付添婦に夜勤の時間を決めて担当の患者の付添に限定しない泊まり込み勤務をさせていた。

安田病院では、付添婦の勤務時間を午前八時から午後六時まで、夜勤を午後六時から翌日午前一〇時までと一律に決められており、付添婦が患者と個別に契約をしていたのではなく、安田病院を経営する被控訴人との労働契約であったことを示している。」

10 同一四頁一行目(72頁4段14行目)から同四行目(72頁4段20行目)までを次のとおり改める。

「(二) 被控訴人

安田病院では、付添婦の夜勤は、各階の付添婦による自治的な合意により決められ、その結果当番が決められて夜間の付き添いが行われていたのである。これは、夜間付添の共助方法として長年の慣行により確立しているものであって、他の病院でも同様である。」

11 同一四頁一〇行目(72頁4段29行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院の入院病室は、二階、三・四階、六・七階、八・九階の四つの病棟に大別され、各病棟に看護婦、付添婦が配置されている。安田病院では、付添婦の夜警業務を、二階の付添婦に一階の事務所から三階までの表、裏階段、病室、廊下等を割り当て、三・四階の付添婦に三階から五階までの同様の個所、六・七階の付添婦に六階から八階までの同様の個所、八・九階の付添婦に八階から一〇階までの同様の個所を割り当てて、付添婦に二、三〇分毎に巡回させていた。安田病院では、付添婦による夜警業務の結果を毎日看護婦長に点検させ被控訴人に報告させていた。安田病院では、医師、看護職員の著しい不足のため、夜間には看護婦が寝ているだけでよいと言われて僅かに配置されているだけであり、付添婦が患者の監視から夜警までを命じられていたのである。」

12 同一五頁三行目(73頁1段4行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、別に保安員を確保しており、付添婦に夜警を命じたことはない。」

13 同一五頁七行目(73頁1段10行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、控訴人が勤務していた当時、病院内を清掃する清掃婦を雇っていなかった。安田病院では、病院全体の清掃業務を四つの病棟ごとに付添婦に割り当てて、病院全体の清掃を付添婦にさせており、控訴人その他の二階勤務の付添婦に対しては、二階の病室全体の床、一ないし三階の表、裏階段及び二階廊下のモップ掛け、二階便所の清掃、一階裏駐車場のゴミや汚物置き場の清掃を命じ、時には一階玄関のガラス拭き、廊下のモップ掛けをするように指示していた。」

14 同一六頁六行目(73頁1段25行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、看護婦の不足のため、付添婦に対し、患者の検温、血圧・脈搏の測定、酸素吸入、鼻腔栄養チューブの導入、褥痩の消毒、薬塗り、ガーゼ貼り、膀胱の洗浄等看護婦の仕事をさせており、その付添婦も不足していた。控訴人その他の付添婦は、安田病院の荒廃した医療、労働実態の中で従業員の最下層に位置付けられ、過重な労働を強いられていた。」

15 同一六頁八行目(73頁1段28行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、控訴人が付添婦をしていた当時、病院の看護婦の仕事を補助する看護補助者を病院職員として数十人雇用していたのであり、付添婦に医療行為をさせていない。」

16 同一六頁九行目(73頁1段29行目)から同一八頁四行目(73頁2段25行目)までを次のとおり改める。

「9 患者が死亡した場合の扱いについて

(一) 控訴人

被控訴人は、患者が死亡した場合、担当の看護婦と付添婦を事務所前に呼びつけて『お前らのサービスが悪いからや。』などといって責め、罰金と称して付添婦については給与から二日分を差し引くのが常態であった。そして、被控訴人は、患者担当の看護婦と付添婦に対し、各自の負担で香典と供物を持って遺族方へのお悔やみと神社への参拝を命令し、付添婦に対し、その時間の付添料をカットして支給しなかった。

(二) 被控訴人

付添婦は、担当した患者が死亡した場合、付添料の二日分だけ患者の親族に返還している。これは、被控訴人が命令したことによるものではなく、付添婦が患者の遺族に対する悔やみ料的な感覚で返還しているのであって、看護の不備による償いとして行われているものではない。被控訴人は、付添婦に対し、神社への参拝を命令したことはなく、もともと付添婦に対し付添料を支給していないのであるからカットする筈もない。

10 賞与、退職金の支給、給与の源泉徴収、健康保険等の加入について

(一) 控訴人

安田病院では、賞与や退職金の支給を受けた職員はごく僅かであり、控訴人が賞与や退職金の支給を受けなかったからといって、安田病院の職員でないということにはならない。

安田病院では、付添婦の実態が病院の職員であるにも拘わらず、老人保険等による付添料償還制度を利用して付添料の還付を受けるために、付添婦を三国紹介所から派遣された者という形にしていたのであり、そのため健康保険や厚生年金保険に加入させなかったのであるから、控訴人が健康保険や厚生年金保険に加入していなかったとしても、控訴人を安田病院の職員ではないということはできない。

(二) 被控訴人

控訴人は、付添婦であり、付添料から所得税等の源泉徴収を受けておらず、賞与及び通勤交通費の支給がなく、病院職員なら当然に加入する筈の社会保険にも加入していなかったが、病院に対し、賞与の支給の要望や社会保険への加入の申し出をしていない。」

17 同一九頁三行目(73頁3段11行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、老人保険等による付添料の償還制度を利用して利益を得るため、付添婦を形式上三国紹介所を通して働いているようにして、人事管理の上で給料支給日等について他の従業員と区別して行っていたのである。」

18 同二〇頁五行目(73頁4段3行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、付添婦であり、付添料を受領するために要する書類の形式や手順、支払日、支払手続が安田病院の職員に対する給与の支給手続と全く異なっていた。」

19 同二一頁二行目(73頁4段17行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「安田病院では、右のように病院の責任で付添看護を実施すると宣伝して患者を集めていたため、病院に付添婦を確保する必要があった。安田病院では、付添婦に対しては、昼間数人の患者の付添を担当させ、三日に一度の夜勤のときは昼間の数倍の数の患者を世話させながら、付添料として老人保険などから付添看護費用の償還が認められる患者二人付で一人当たり三六五〇円の限度によってしか支払わず、生活保護法により病院に直接支払われる付添看護扶助金を付添婦に交付しなかった。安田病院では、患者の家族から毎月一一万三一五〇円(3,650円×31日=113,150円)を徴収し、付添婦の付添料金を決定していたのである。」

Ⅱ  被控訴人は、平成五年一二月七日に控訴人を解雇したかどうか。

右解雇は解雇権の濫用として無効かどうか。(争点2)

次のとおり付加するほか、原判決二二頁一行目(74頁1段3行目)から同二四頁八行目(74頁2段24行目)までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決二三頁七行目(74頁2段2行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「被控訴人が平成五年一二月七日に控訴人に対してなした右解雇は、合理的理由がなく解雇権の濫用として無効である。」

2 同二四頁八行目(74頁2段24行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「したがって、被控訴人は、平成五年一二月七日に控訴人を解雇したものではなく、単に控訴人が同日から安田病院で付添婦として働くのを止めただけのことである。」

Ⅲ  被控訴人は、控訴人に対する平成四年四月一日以降の賃金、割増賃金についての未払分を負担しているかどうか。(争点3)

次のとおり訂正、付加するほか、原判決二五頁末行(74頁3段15行目)から同三〇頁二行目(75頁2段3行目)までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決二七頁三行目(74頁4段7行目)の「六一六〇〇〇円」とあるのを「六一万六六六六円」と改める。

2 同二九頁九行目(75頁1段29行目)の「九四五万〇五二九円」とあるのを「九四五万一一九五円」と改める。

3 同三〇頁二行目(75頁2段3行目)の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「月額五〇万円という給与は、安田病院の他の付添婦が受領している付添料の額とは隔絶した高額のものである。被控訴人は、多数の付添婦がいる中で控訴人に対しこのような高額の給与の支給を約束する筈がない。

仮に安田病院の職員が控訴人に対し患者二人持ちの場合、三人持ちの場合の付添看護料の額を教示したとしても、単に親切心から話したことであり、被控訴人は、控訴人に対し右金額の給与を支払う旨約束したものではない。

控訴人は、付添労働について付添料の支払を受けており、既に受領した付添料を被控訴人から支払を受けていたというのであれば、控訴人の本件請求は同一の労務の提供に対する二重の賃金請求となり、それ自体不当である。」

第三争点に対する判断

一  控訴人の付添婦としての採用の経過と勤務の実態

1  証拠(<証拠・人証略>)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 控訴人は、昭和六一年頃に付添婦として松崎病院から雇用されて病院の職員として働いたことがあり、平成元年頃には阪南付添婦紹介所の紹介で緑風会病院、越川外科病院において入院患者と契約をして付添業務をして患者から付添料の支払を受けたことがあった。

(二) 控訴人は、平成四年三月に安田病院を訪れ、同病院の事務職員小松原に付添婦として雇って欲しいと頼み、小松原は、勤務時間が午前八時から午後六時までの日勤のほか、午後六時から翌日午前一〇時までの夜勤があること、付添料が患者二人を担当して月額二〇万円であるが、担当する患者が一人増える毎に一〇万円が加算されること等の説明をした。控訴人は、四日に一回程度なら病院に泊まり込む夜勤もできると述べて雇って欲しいと求めた。その後、小松原は、被控訴人に報告し、控訴人を付添婦として採用してもよいとの被控訴人の判断に従って、控訴人から履歴書を提出させ面接して採用を決めた。

控訴人は、平成四年三月一六日から安田病院二階の病棟で患者の付添業務をすることになった。

(三) 安田病院は、医師である被控訴人が個人で設置し、院長をしていた病院であり、被控訴人の一存で経営管理が行われており、職員の採用のほか、罷免、職員の監督、金員の管理、経理の処理は被控訴人から職員に対する直接又は間接の指示によって行われていた。小松原は、職員採用の決定権限がなく、被控訴人の指示に従っていた。

安田病院では、平成四年当時、基準看護の制度を採用しておらず、患者が付添婦に付添料を支払い、後日保険から付添料の償還を受ける形式を採っていたため、安田病院の付添婦をすべて三国紹介所(責任者杉本愛子)から派遣された形式を採り、患者と付添婦との契約であるということにしていた。しかし、控訴人は、安田病院で付添婦として働くに当たり、杉本愛子その他の三国紹介所の担当者の面接を受けたことはなく、小松原からも被控訴人からも、三国紹介所から派遣され、患者との間で付添契約を結ぶものであるとの説明を受けたこともなく、三国紹介所の存在も知らなかった。

安田病院では、職員として看護婦、薬剤師を採用するときに、職員との間で労働契約書を作成し、免許証を預かることがあったが、控訴人との間では労働契約書を作成しなかった。

(四) 安田病院では、担当する患者の決定は付添婦と患者との交渉によってではなく、病院の指定によるものであった。安田病院では、付添料は日額三六五〇円(一か月三一日の場合月額一一万三五〇(ママ)〇円)と決められ、生活保護受給者を除き付添を要する患者から病院事務室で直接支払を受け、老人保険の適用を受ける患者については付添料の償還請求の手続をとって患者に返還し、生活保護受給者についても同様の付添看護扶助金の請求手続をとっていたが、付添婦に対しては、患者二人以上の付添をしても付添料月額二〇万円を支給するに止めていた。控訴人は、患者から付添料を受け取ったことはなく、付添料の金額をいくらにするか患者と話し合ったこともなかった。

安田病院では、付添婦に対し、通勤交通費、賞与、退職金を支給しておらず、毎月支給する付添料について所得税、住民税の源泉徴収の手続をせず、健康保険や厚生年金保険に加入させなかった。控訴人は、この点について苦情を申し出ることはしなかった。

安田病院では、病院の入院案内に、付添で困っている方には安田病院が付添看護をする旨記載し、家族の付添のできない老人患者については安田病院が責任をもって看護し、看護の形態を患者二、三人について付添婦一人がつき、付添料を無料(還付式)とする旨を記載し、付添看護サービスと表示した安田病院のテレフォンカードを配布していた。

安田病院では、患者が支払った付添料が老人保険から還付され、生活保護受給者についても同様に付添扶助金が支給されるため、付添婦を安田病院の職員ではなく、三国紹介所から派遣された者として扱い、付添料を病院職員の給与の支給日とは別の毎月一五日に支払い、その支払事務を三国紹介所の杉本愛子に担当させていた。しかし、三国紹介所を設置している淀ノ海株式会社は、被控訴人が取締役に就任したことのある会社で、被控訴人は関係者を役員に就任させて支配しており、杉本愛子は、安田病院でも執務をする安田病院の職員であり、安田病院で働く付添婦は、全員三国紹介所から派遣された扱いになっていた。

(五) 控訴人は、安田病院で、患者の身体の清掃、オムツの交換、患者の起床就寝の介添、患者の衣類・シーツの交換と洗濯、散髪、看護婦等からの指示による患者の床擦れの処置、服薬、検温、酸素吸入の補助、レントゲン撮影時の介護、患者死亡後の処置等のほか、発熱した患者に薬局で購入した薬を飲ませたり、氷で冷やしたり、点滴を抜いたり、痰取りのチューブを入れたりする仕事をしていた。

控訴人は、安田病院で、当初は病院の指示した患者二人を担当し、四日に一回程度夜勤をしたが、二か月後からは、患者を四、五人担当し、三日に一回の割合で夜勤をするという状態となった。

控訴人は、毎月一五日、経過した一か月分の付添料として、担当する患者の数や夜勤の回数に関わりなく月額二〇万円の支給を受けていた。右支給は、三国紹介所が付添婦に支給するという形をとっていたが、付添料の計算、金員の管理は安田病院の事務職員が担当していた。

控訴人は、二か月目から担当する患者が増え、夜勤も多くなったのに、支給される付添料が月額二〇万円であったことから小松原に苦情を述べ、翌月だけ三〇万円の支給を受けたが、その後は再び月額二〇万円の支給に戻った。そこで控訴人は、再度小松原に苦情を述べたが、小松原から自分ではどうにもならないという話を聞いたに止まり、被控訴人に対し、採用時に小松原から聞いた勤務条件が正確なものかどうかについて確認を求めず、そのまま約一年半を経過した。

(六) 安田病院では、病院の四階に付添婦用のタイムレコーダーを設置して、付添婦にもタイムカードを作り、付添婦の勤務状況を管理し、付添婦に対し、毎週月曜日の朝礼に出席するように指示し、朝礼では、安田病院の事務職員が付添婦についても点呼して勤務に就いていることを確認していた。

安田病院では、看護婦詰所で付添婦についても日勤、夜勤の勤務表を作成させ、夜勤明けの付添婦が次の日勤の付添婦の氏名を病院事務室に申告するようにさせていた。

安田病院では、付添婦に対して病院内の清掃を指示し、付添婦は、担当する患者のベッドの周囲に限らず、毎日午前、午後の二回にわたり分担して病院内を清掃していた。

安田病院では、夜間には極めて少数の医師、看護婦を配置し、警備員を置いていなかったため、夜勤の付添婦に対して担当する患者に限らず病棟の患者全員について看護・監視や夜警として病棟内の巡視を指示し、夜勤の付添婦は、患者の看護・監視のほか、二、三〇分に一回の割合で病棟内の指示個所を巡回して巡回簿に記載し、翌朝事務室に提出していた。

安田病院では、患者が死亡した場合に担当の看護婦、付添婦を責め、付添婦については付添料の支給に当たって二日分を控除し、定例の一五日よりも遅く支給したり、各自の負担で香典と供物を持って遺族方へお悔やみに行かせたり、神社に参拝してくるように指示したりした。

2  (人証略)、原審における被控訴人の供述のうち右認定に反する部分は信用することができない。

被控訴代理人の小松原との電話応答を録取した反訳録(<証拠略>)は、先にみた認定を左右するに足りない。

二  争点1について

1  使用者と労働者との間に個別的な労働契約が存在するというためには、両者の意思の合致が必要であるとしても、労働契約の本質を使用者が労働者を指揮命令し、監督することにあると解する以上、明示された契約の形式のみによることなく、当該労務供給形態の具体的実態を把握して、両者間に事実上の使用従属関係があるかどうか、この使用従属関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかにより決まるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、先にみたとおり、控訴人は、平成四年三月に安田病院に履歴書を提出して安田病院の事務職員小松原の面接を受け、小松原から報告を受けた被控訴人の判断によって採用され、採用に当たり三国紹介所の関与を受けていないというのである。控訴人は、安田病院で付添婦として勤務するについて、担当する患者を安田病院から指定され、出退勤を安田病院の設置したタイムカードによって病院職員から管理され、昼勤、夜勤の勤務する日を患者や三国紹介所の指定によらず安田病院の勤務表によって指定され、付添業務そのものを安田病院から指揮、命令されており、又、朝礼への参加、病院の清掃、夜警を安田病院から命じられ、安田病院から病院職員としての監督を受けており、更に担当の患者が死亡した場合に付添料二日分を控除され、付添料を患者の病院に支払った額ではなく、安田病院の定める月額二〇万円で支給され、安田病院から給料の支払を受けていたというのである。

そうだとすれば、控訴人は、三国紹介所に雇用され同紹介所から安田病院に派遣された付添婦という形式がとられているものの、あくまでも形式だけのものであり、しかも三国紹介所のオーナーである淀ノ海株式会社が人的構成や出資面で被控訴人から支配されているという関係にあり、結局のところ安田病院を経営する被控訴人の指揮、命令及び監督のもとに安田病院に対して付添婦としての労務を提供し、安田病院がこれを受領していたものと評価することができるから、安田病院を経営する被控訴人との間に実質的な使用従属関係が存在していたものということができ、又、客観的に推認される控訴人と被控訴人の意思は、労働契約の締結と(ママ)承諾をしていたものと解するのが相当であって、結局両者の間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。したがって、控訴人は、平成四年三月に安田病院の付添婦(職員)として採用され、被控訴人との間に労働契約を締結したものと認めるのが相当である。

2  小松原は安田病院の職員や付添婦の採用を決定する権限を与えられていなかったことは先にみたとおりである。しかし、控訴人の採用は、小松原の報告を受けた被控訴人が決めたことであるから、小松原に権限のないことは先にみた判断を左右するものではない。

安田病院では基準看護の制度が導入されていなかったため、付添婦を安田病院の職員として採用する形式をとらず、三国紹介所から派遣されたことにしていたというのである。しかし、これはあくまでも名目だけのことで、控訴人の採用の決定は、三国紹介所ではなく、安田病院がしており、日常の付添婦の付添業務の指揮は安田病院がしていたことは先にみたとおりであり、基準看護でないことをもって前記判断を左右することはできない。

先にみたとおり、控訴人が毎月一五日に支給を受ける付添料は、三国紹介所から付添婦に支給するという形式が採られていた。しかし、付添料の計算、患者から病院に支払われた付添料の管理を安田病院の職員が担当していたのであり、支給の形式や支給日、支給手順が他の職種の職員と異なることを理由に控訴人と被控訴人との間に労働契約の締結されたことを否定することはできない。

先にみたとおり、控訴人と被控訴人との間には労働契約書が作成されておらず、被控訴人から付添婦に対し、通勤交通費、賞与、退職金が支給されておらず、毎月支給する付添料について所得税、住民税の源泉徴収の手続がなされず、健康保険や厚生年金保険への加入がなされていなかったこと、この点について、控訴人から苦情の申し出がなされていなかったことが認められる。しかし、これらの事実をもってしても、先にみた控訴人の採用経過のほか、安田病院における付添婦に対する指揮監督の状況、付添婦の業務内容、付添婦に毎月支給する付添料の算定や患者が病院に支払った付添料の管理、患者が死亡した場合における二日分の付添料の控除の状況等からすると、控訴人と被控訴人との間に労働契約が締結されたとの前記判断を左右することはできない。控訴人が被控訴人に対し健康保険や厚生年金保険に加入したいと申し出なかったことは、右労働契約の締結を否定するまでの根拠とはならない。

3  被控訴人は、控訴人が他の付添婦と同様に、患者との間の契約であることを承認して付添業務に従事し、三国紹介所を介して患者から他の付添婦と同じ基準による付添料を受領していたのであり、被控訴人との間で労働契約を締結していないと主張する。しかし、先にみたとおり、控訴人は、当初三国紹介所を知らなかったのであり、患者との間の契約であると認めることはできず、患者から付添料を受領していないのであるから、右主張は理由がない。

被控訴人は、患者の治療について全面的な責任を負っているから、業務の円滑適正な遂行を確保するため、安田病院内の付添婦に対し、後見的立場から注意や指導をし、三国紹介所の業務についても一部手助けをしたに過ぎないと主張する。しかし、先にみたとおり、被控訴人は、付添婦に対しても直接、間接に指示をしており、後見的立場から注意や指導をしたというに止まるものではないから、被控訴人の右主張は理由がない。

被控訴人は、控訴人が患者から付添料の支払を受けていたのであるから労働契約が控訴人と被控訴人との間に成立したというのは不自然、不合理であると主張する。しかし、先にみたとおり、控訴人は、患者から付添料の支払を受けたことがなく、付添料の金額をいくらにするか患者と話し合ったこともないのであるから、右主張は理由がない。

被控訴人は、控訴人が松崎病院、緑風会病院、越川外科病院での勤務の経験から、安田病院のように基準看護をとっていない病院では付添婦を病院の職員として採用することはあり得ないことを承知していたと主張する。しかし、先にみたように、控訴人は、松崎病院では職員として採用されており、緑風会病院、越川外科病院では患者と契約をして患者から付添料の支払を受けていたのであるから、右主張は理由がない。

4  次に、控訴人と被控訴人との間で成立した労働契約の内容についてみると、先にみた事実によれば、控訴人は、安田病院に採用されるに際し、同病院事務職員小松原から、勤務時間が午前八時から午後六時までの日勤のほかに、午後六時からの翌日午前一〇時までの夜勤があること、付添料が患者二人を担当して月額二〇万円で、担当する患者が一人増える毎に一〇万円を加算されること等の説明を受けたこと、控訴人は、安田病院に勤務した後、実際に支給を受けた付添料が毎月二〇万円だけであり、担当する患者が増えたのに支給額がそれに応じて増額されなかったこと、そこで控訴人は、小松原に苦情を述べたところ、支給額が一か月だけ三〇万円となったが、その後再び月額二〇万円となり、小松原からこれ以上を支給することはできないといわれ、そのまま約一年半を経過し、担当する患者の数や夜勤の回数に関わりなく月額二〇万円の支払を受けていたことが認められる。そうだとすると、控訴人と被控訴人との労働契約には、担当する患者が二人の場合が月額二〇万円で、担当する患者が一人増える毎に一〇万円が加算されること、夜勤を多くすれば右二〇万円の支給以外に割増賃金が支払われることという合意が成立していたものとまで認めることは困難である。先にみた事実からすれば、控訴人に対し、労働基準法上の休日が付与されているかどうか、労働時間の保護が与えられているかどうかについて疑問が残るものの、控訴人と被控訴人との間の労働契約には、夜勤、休日労働を含めて、全労働について月額二〇万円の賃金を支払うという黙示の合意があったと解するのが相当である。

三  争点2について

1  証拠(原審における控訴人《第一、二回》、原審における被控訴人)によれば、次の事実を認めることができる。

控訴人は、平成五年一二月七日午後、入院患者が安田病院事務室に何度も福祉給付金を取りに行ったことについて、被控訴人に呼ばれた担当の付添婦に代わって事務室に出頭したところ、被控訴人から患者にきちんと薬を服用させているかと尋ねられたのに対し、病院が患者に小遣いを渡さないのでどうなっているのか聞きに来ているのであるという趣旨の説明をし、自分が担当付添婦ではないし、診察室から勝手に薬を取り出して患者に服用させるわけにはいかないと応えた。これを聞いた被控訴人は、立腹して、控訴人に対し、「お前はわしに楯突くのか。」「クビだ。」「もう帰れ。」「もう従業員じゃない。給料もやらん。帰れ。」と怒鳴った。控訴人は、被控訴人の言動に納得できなかったものの、驚いて直ちに安田病院を去り、安田病院に出勤することができなかった。

そして、被控訴人は、二階の病棟で付添婦らに対し、控訴人を解雇したと述べた。その際、付添婦として勤務していた上山つな子は、右患者の担当付添婦ではない控訴人にとって患者に薬を服用させたかどうかは関係がない旨発言したところ、その後、系列の円生病院に転勤させられた。

控訴人は、その後、平成六年一月から同年四月頃まで毎月一回安田病院に行って、未払である平成五年一一月一六日から同年一二月七日までの賃金の支払を求めたが、拒否された。

2  右認定事実によれば、被控訴人は、控訴人の言動が意に沿うものでなかったことに立腹して、控訴人に対して解雇の意思表示をしたものと認めることができる。

被控訴人は、付添婦の態度が患者の病状に影響するので、付添婦に対し患者の扱いについて注意をしただけであり、付添婦の使用者でない被控訴人が、患者の担当付添婦でもない控訴人を解雇するなどという筈がないと主張するが、先にみたとおり、被控訴人の右主張事実を認めることができないから、右主張は理由がない。

被控訴人は、控訴人が同日から安田病院で付添婦として働くのを止めただけのことであり、任意退職したものであると主張する。しかし、先にみたとおり、控訴人は、被控訴人の言動からやむなく安田病院に出勤できなくなったものと認められるから、任意退職をしたものということはできず、被控訴人の右主張は理由がない。

3  先に認定した事実によれば、被控訴人が控訴人を解雇したのは、患者が病院事務室を度々訪れることについて、被控訴人の問いに対する控訴人の返事が被控訴人の意に添うものでなかったことに立腹したことによるというだけのものであり、被控訴人のした解雇は著しく合理性を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができず、解雇権の濫用として無効というべきである。

四  争点3について

1  先にみたとおり、控訴人と被控訴人との間の労働契約には、夜勤、休日労働を含めて月額二〇万円の賃金を支払うものという合意が成立し、担当する患者や夜勤を多くすることにより割増賃金を支払うという合意までが成立していたものと認めることができない。したがって、控訴人は、夜勤、休日労働も所定労働時間であり、これについて割増賃金の支払請求権を有するものと認めることは困難である。そうだとすれば、控訴人の月額五〇万円の約定賃金の支払請求、時間外労働、休日労働についての割増賃金の請求は理由がない。

2  先にみたとおり、控訴人は、被控訴人に対して、月額二〇万円の賃金請求権を有するところ、被控訴人により平成五年一二月七日になされた無効な解雇の意思表示により就労を拒否されたものということができるから、その後の賃金請求権を失わないと解するのが相当である。しかし、本件口頭弁論を終結した平成九年一二月九日よりも後の分の賃金支払請求については、不確定要素もあり、将来給付の請求として予めその請求をなす必要があると認められないから、訴えの利益を欠き不適法である。そうだとすれば、控訴人は、先にみたとおり、被控訴人から支払を受けていないと認められる平成五年一一月一六日から同年一二月七日までの未払賃金分一四万六六六六円とこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである平成六年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに平成五年一二月八日から本件口頭弁論を終結した平成九年一二月九日まで毎月一五日限り各二〇万円の賃金の支払請求権を有するということができる。

被控訴人は、控訴人が付添労働について付添料の支払を受けていると主張する。しかし、控訴人が、被控訴人から平成五年一一月一六日以降の付添労働について賃金の支払を受けた事実を認めるに足りる証拠はない。

被控訴人は、控訴人が既に受領した付添料が被控訴人から支払われていたというのであれば、控訴人の本件請求は同一の労務の提供に対する二重の賃金請求となり、それ自体不当であると主張する。しかし、右に述べたとおり、被控訴人が控訴人に対し、平成五年一一月一六日以降の付添労働について賃金を支払った事実を認めることができないから、被控訴人の右主張は理由がない。

五  結論

以上の理由により、控訴人の本訴請求は、控訴人が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成五年一一月一六日から同年一二月七日までの未払賃金分一四万六六六六円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び平成五年一二月八日から平成九年一二月九日まで毎月一五日限り月額二〇万円の割合による賃金の支払を求める限度で理由があるから認容し、控訴人の平成九年一二月一〇日以降の賃金の支払を求める訴えは不適法として却下することとし、その余の請求は理由がないものとして棄却すべきであり、右と一部結論を異にする原判決を右のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 礒尾正)

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